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桜が舞う・・・とても良く晴れた日。
治彦は高校生になった。
治彦の容姿は秀治をそのまま幼くしたような・・・・彼の生き写しだった。
ただ・・・その目は・・・秀治より暗く悲しげな色をしていた。
治彦は小さな頃から子供らしさがなく変に冷めていた。
ただ、いつも彼が大切な人を見つめる時の目は・・・とても優しかった。
入学式の帰り治彦とゆずは秀治に高校入学の報告をしに行った。
桜の木の側にあるお墓。秀治の眠る場所。
秀治の墓前に花を供え2人はそれぞれの想いを込めて手を合わせる。
ゆずは『ふぅ・・・』と息を付き微笑んで言った。
「さてと!じゃあ、入学祝に何か美味しい物でも食べに行きますか!」
「何でも良いの?」
「良いよ!」
そう言ってゆずは歩き出した。
治彦はゆずの後姿を見つめていた。
ゆずの髪に桜の花びらが1枚絡まっていた。
治彦が少し気持ちを集中した瞬間花びらは不自然に宙に舞い上がり他の
散ってゆく花びらに混じって地に落ちた・・・・・。
その時治彦を優しい空気が包んだ・・・・・。
治彦を包む気配・・・・その存在が何なのか治彦にはわかっていた。
治彦はその存在を愛しそうに感じ心の中で優しく語り掛ける・・・。
『父さん・・・・・・・心配しなくていいよ・・・』
なお心配そうに語りかけてくる存在に治彦は少し微笑み心での会話を続ける。
『大丈夫・・・この『力』・・・大事な人のため以外に使ったりしないから・・・安心してよ・・・父さん・・・』
そしてクスッと笑った。
『それに、もし暴走してしまって俺がこの『力』で誰かを傷付けそうになったら父さんが
止めてくれるでしょう?』
治彦は小さな頃からこうして秀治とよく会話している。
秀治が事故で亡くなったその瞬間から秀治は治彦とゆずのすぐ側にいる。
『もし俺がもっと大きければあの日何が起こるかちゃんと伝えられたのに・・・・』
治彦は今でも悔やんでいる。
治彦が1歳の頃秀治は事故で死んだ。
タクシーで帰宅途中対向車線から大型トラックが突っ込んできて・・・即死だった。
当時1歳だった治彦はその何ヶ月も前から激しく泣き続けた。
ゆずや秀治が側にいると泣き止むものの何かに脅えたように泣き続けた・・・・。
治彦は・・・予知していた・・・・自分の大切な人に何が起こるか・・・漠然とわかっていた。
赤ん坊だったため、ただ不安を感じ泣くしかなかった。
『力』が再び使えるようになっていた秀治はそんな息子の心を感じ
自分の死が近いことを知った。
同時に自分の息子にも不思議な・・・しかも自分よりはるかに強い『力』があることを知った。
1歳の赤ん坊が感じた予知。とてもじゃないがきちんとした形で伝えられるはずもなく
秀治も自分を守る術がなかった。
そして・・・事故が起き、以来秀治の心はいつもゆずや治彦の側に寄り添っている。
治彦にはそれがはっきりわかっている。
治彦は秀治と同じ『力』も持ち、それ以上にいろいろな『力』も持っていた。
人を簡単に傷つけることも出来る・・・・・。
秀治はそんな治彦をいつも心配し優しく守ってきた。
体を無くしてもなお、治彦にいつも語りかけていた。
だからこそ治彦も『力』で誰かを傷付けることも自分自身を消すこともなく
ここまで生きて来られた。
だからこそ母に自分の『力』を隠し通すことが出来た。
『知ったら・・・母さん心配するもんね・・・』
治彦を包んでいた温かい存在が同調し・・・そして彼から離れ
ゆずの元へ帰って行った。
『ずっと一緒・・・・・約束だよ』
秀治は今もゆずとの約束を守っている・・・・・。
秀治はその約束が果たされるまで
ゆずを優しく包み見守り続けるだろう。
ゆずを再び包み込む存在が現れるか・・・もしくはゆずの人生が終わるその日まで・・・。
ゆずには『力』がないから治彦のように秀治の存在を直接感じることが出来ない。
それでも時折自分の中に秀治の温かさを感じていた・・・・・・・。
治彦は秀治に向かって想いを送る。
『・・・父さん。俺と母さん、どんどん心配かけるからね・・・・・・
だから・・・・ずっと側にいてよ。・・・ずっと・・・・』
ゆずが振り返り治彦を呼ぶ。
治彦はゆずの元へ走って行った・・・・。
2001.5.6 END
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