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天国と地獄 おまけ(最終回)

「それじゃ、行ってきますよ。」

次の日の早朝、八重子は大荷物を持って草津温泉へと旅立って行った。
荷物が多過ぎてタクシーを呼んで駅へ向かった。


外までお見送りした優希と、お見送りさせられた賢一。

「・・・何であんなに荷物があるんだ?」
賢一は隣にいた優希に尋ねた。

「宿泊するホテルにダンスホールがあるらしくて、その衣装を何着か持って行くって言ってました。」
「だ・・・ダンス?」
「ばあやは社交ダンスをやっているんですよ。」

<げっ・・・・>
ヒラヒラのきらびやかなドレスを着た八重子の姿を想像してしまい、眩暈がした。


「さ、賢一様。私達も出かけなければ遅刻ですよ。」
「うわ!そうだ。」

2人は慌てて部屋に戻り身支度をする。同時に準備が終わり、仲良く家を後にした。

「賢一様。お手伝いさん達には2週間お休みを差し上げました。
私が賢一様のお世話をさせていただきますね。」
「・・・お世話・・・?」
門の前で別れる時、優希がさらりと言った一言で、賢一はこれから2週間
2人きりだということに気が付いた。

「今夜はご馳走作りますね♪」
ニコッと笑って、走っていく優希の後姿を賢一はぼんやりと見つめていた・・・・。

<そうだ。2人きりなんだ・・・>
今になってそのことに気が付き・・・ショックを受けてヨロケながら会社へと向かった・・・。




学校帰り、優希はスーパーに寄って夕食の買い物をする。
今までだって優希自身が食事の用意をしたことは何度もあるが、今夜は特別。

<2人きりの夜なんだもん>
嬉しさが込み上げて、歩く足も楽しげだ。

一方賢一は、仕事を終えて、電車に揺られながら考え込んでいた。

<もう我慢しないって宣言したけど・・・本当に良いのかなぁ・・・>

嬉しいんだけど、どこか重苦しい足取りで帰宅した賢一を待っていたのは・・・・。


「お帰りなさい。賢一様。」
ジョルジュと一緒に玄関までお出迎えに来た優希。
その姿は・・・・・。

白い清楚なワンピースに薄い桜色のエプロンをつけていた。
優希に白はとても良く似合う・・・・まるで天使のようなその姿。


「・・・た・・・だい・・ま・・・・。」

思わず見惚れてしまって、情けない『ただいま』のご挨拶になってしまった・・・・。

「賢一様?どうなさったんですか?」
きょとんとした顔でぼんやりしている賢一の顔を覗きこむ。

「あ、いや、昨日の格好とは随分違うな・・・と思って・・・。」
黒い、露出度の高い服も似合ってはいたが、断然こっちの方が良い。

「似合っていませんか?」
少し不安そうに尋ねられ、賢一は慌てて首を横に振った。
「すごく似合ってる。」
「良かった・・・。ばあやの言った通りだった。」
「?」
「これ、ばあやが用意してくれていた服なんです。」
「・・・へ?」
「賢一様が喜ぶからって見立ててくれていたらしいんです。」

「・・・・・・・・。」
賢一は優希の言葉を聞いて呆然とした・・・。

<あんの婆あ・・・・>
何で俺の好み、知ってるんだーーーーーー・・・・と、心の中で叫ぶ。

あの婆あだけは敵にまわさない様にしようと心に誓う賢一であった・・・。


賢一は部屋着に着替え、2人と1匹で夕食をとる。テーブルの上には優希が腕を振るった
和食が用意されていた。

「美味しい・・・。」
とても美味しくて、一口目でそうコメントした賢一。

賢一が口を付けるのを、じーーーーっと見ていた優希、ホッと胸を撫で下ろす。

「良かったです・・・・。」
「そんなに緊張しなくても・・・。」

優希はクスっと笑う。

「私、洋食なら自信があるんですが、和食は1人で作るのは初めてで・・・。」
「それなら洋食でも良かったのに・・・。」

優希は少し首を傾げて、微笑んだ。
「私、知ってます。」
「ん?何を?」
「賢一様、和食の方が好きですよね?」
「・・・どちらかと言えば・・・。」

賢一は好き嫌いはないし、洋食だって中華だって好きなのだが、もともと食が細くて
さっぱりした和食の方が食が進むのだ。

<・・・でも、そんなの微妙な差なのに・・・・>
良く知ってるなぁ・・・・と思わず感心してしまった・・・。

「たくさん食べて下さいね。」
嬉しそうにあれもこれもと勧める。

「煮物美味しいですか?」
「うん。美味しい。」
「この茶碗蒸しは?」
「美味しいよ。」
・・・・・と、和やかに夕食の時間は過ぎて行った・・・・・。


その後は居間のソファーに座り、紅茶を飲んでいた。
2人とも無口で・・・・ジョルジュだけがのんきに床で寝ていた。

賢一は、隣に座っている優希の存在を感じるたび、自分が緊張していることに気が付く。

<どうしよう・・・・酒でも飲んで酔っ払って寝ちゃおうかな・・・>
などと、またまた逃げ腰になっている賢一。

「賢一様。」

突然話しかけられ、ビクッとして視線を向ける。

優希は、微笑みながら手を伸ばし賢一の頬に触れる。


「賢一様は、私のことが好きだと言って下さいましたよね。」
「あ・・・ああ。」
「いつから好きだと思ってくれていたんですか・・・・?」
「いつからって言われても・・・・・・・・。」

いつから自覚したのか・・・・真剣に考え・・・・・・・初めて優希に会った時の
彼女の瞳を思い出す・・・。

「瞳・・・・を見てから・・・・。」
はっきり言って、あの瞬間に、賢一の心は捕まっていたのかもしれない・・・・。


「瞳?」
優希は、きょとんとした顔で賢一を見つめる。

賢一の目に映る優希の瞳は、前と変わらず澄んでいて・・・温かだった。

<守りたいと思ったんだよな・・・・>
疑うことを知らない、優しい少女・・・・・。

優希はソファーから少しだけ腰を浮かし、賢一の頬にそっとキスをした・・・・。

「大好きです。賢一様・・・・。」
耳元で囁いた・・・・。


ふと、ジョルジュが目を覚まし、顔を上げた時、居間には賢一と優希の姿はなかった・・・。






「賢一様。」
ベッドに押し倒され、優希の綺麗な髪が乱れる。
それを見ただけでも賢一の理性は吹っ飛びそうになる。

優希の手首を軽く掴み、体重をかけないように気をつけながら優希の顔を上から覗き込む。

「・・・本当にいいのか?」

やっぱり、どこか自信なさげな賢一の声に、優希はニッコリと微笑んで頷く。
何百回聞かれても律儀に微笑み頷くだろう。賢一が安心するまで・・・・・。

賢一はゆっくり顔を近づけ、唇を重ねた。
前のような触れるだけの口付けとは違う、濃厚なキス。

少し息がしにくくて、優希は苦しそうに目をギュッと瞑る。
・・・と、突然唇が自由になり・・・それと同時に自分の上半身が浮き上がるのを感じる優希。
賢一に体を起こされたのだ。
背中に手を回され、気が付く。
「あ・・・。」
<ワンピース・・・後ろにボタンがあったんだっけ・・・>

ボタンを外され、ワンピースが上半身分だけ脱げ落ちる。
少し恥ずかしくて手で胸を隠そうとするけれど、すぐに賢一に手を握られ、再び押し倒される。

首筋や胸元に賢一がキスしてくれているのを感じ、目を瞑る・・・・。

<これでやっと賢一様が私のものになる・・・・>
嬉しくて嬉しくて涙が零れそうだった。

賢一の息遣いを感じ・・・・・・・。

<え?>
<あれ?>

賢一と、優希、同時に感じる、自分達以外の荒い息遣い・・・・。


ここは賢一の部屋で・・・賢一は最近ドアを半開きにする習慣があった・・・・。

何故なら・・・・・・。


2人は、荒い息遣いの方へ顔を向け、同時に叫ぶ。

「ジョルジュ〜!!」

ジョルジュがベッドに前足をかけて、ハッハッハと息をして尻尾を振っている。
<何してるの?じゃれあいっこ?僕も混ぜて!>
ベッドに上がり、驚いている賢一にのしかかる。
ジョルジュに押し倒され、顔中舐められる賢一・・・心の中で叫ぶ。

<何でこうなるんだーーー!>


そう、最近ジョルジュは賢一と寝たがるので、寝る時はドアを半開きにしてあげていたのだ。
それが習慣になっていて・・・・今回も半開きだったのだ・・・・・。



その頃・・・。
草津温泉でゆったりとお湯に浸かっていた八重子はニヤリと笑う。

<あれだけお膳立てしてやったんじゃ。いくら賢一殿でも、もう年貢の納め時じゃろう>

後で電話して成果を聞きだそう・・・・ワクワクしながら温泉を堪能していた。

・・・数時間後、電話で八重子に苛め倒される運命の賢一であった・・・・・。

2002.1.21 END

あははは。ああ楽しかったー!さて、次は何書こうかな・・・。
何かリクエストありますか?

あ、この話読んでまだ本編の方を読んでいない方!
面白かったと感じて下さったなら本編も読んでーー!


25時間ある男