ハッピーエンド
| 1月4日の朝。 賢一は顔を洗いながら・・・・何か忘れているような気がしていた。 着替えて食堂へ行く。 「おはようございます!」 食堂では優希が席についていた。 既に朝食を終えて紅茶を飲んでいた。 元気いっぱいにニッコリと笑う。 「おはよう・・・」 昨日のこともあり賢一は気恥ずかしくてまともに優希の顔が見れない。 お手伝いさんがスープやハムエッグの乗ったお皿を運んできてくれる。 賢一は少し寝坊したのでちょっと遅い朝食。 それを食べながら・・・やっぱり何か忘れているなぁ・・・と考える。 食後の紅茶を飲みながら居間でテレビを見る。 ニュースで都心の仕事初めの風景が映し出される・・・・。 『仕事初め・・・』 仕事・・・・。 「うぁあああ!」 賢一の叫び声に、側で雑誌を見ていた優希は驚いてビクッとする。 「賢一様?」 「電話・・・電話・・・貸してくれ!」 そう言って居間の隅にある電話に飛び付き受話器を握る。 たった今思い出した。 仕事のことも会社に送った辞表のことも。 辞表を出したのは生きて帰れないと思ったから。 電話口に聞きなれた田所課長の声がした。 「課長!川辺です!・・あの・・・」 『おお〜川辺君か〜体の調子はどうだ?』 少し酔っているようで上機嫌だった。 賢一の会社では1月4日が仕事初めでいつも軽く酒を飲み、その日はろくに 仕事もせず新年の挨拶をしてまわる。 「あの・・・俺、辞表をそちらに送ったんですが・・・」 『おお!確かに受けとった!さっそく手続きさせてもらうよ!荷物やその他のものは郵便で送るからな』 その言葉に賢一の頭は真っ白になる。 「待って下さい!それは・・・」 『いやぁ、君がいなくなると思うと寂しいよ!まあ、元気でな!はっはっは!』 ガチャン! ・・・電話を切られてしまった。 力なく受話器を置き、途方に暮れる。 『プータロ決定・・・・・・クスン・・・』 さっそく職探ししないとなぁ・・・・。 「朝から何ガックリきとるんじゃ。若いのに!」 振り返ると八重子が立っていた。 そういえば起きてきた時八重子の姿を見なかったな・・・と賢一は気が付いた。 「・・・・・どこか行ってたのか?」 「賢一殿のアパートの大家さんに会って来たんじゃ」 賢一はきょとんとして首を傾げる。 「・・・・何で?」 「賢一殿の借りている部屋を引き払うからじゃ」 「・・・・・・・・・・・・はぁ?」 目をまあるくし八重子を見つめる。 「お嬢様とお付き合いなさるからには私の目の届く所にいてもらわんとな」 八重子は『当然』というように胸を張る。 そうこうしているうちに引越し業者が賢一の荷物を次々と運んできた。 「あっちの客間に全部運んどくれ」 八重子は今まで賢一が使っていた部屋に荷物を入れさせた。 これからはここが賢一の住居となるようだ・・・。 その様子を賢一はボーゼンと見ていた。 客間だった部屋に賢一の荷物が収まった。 その様を満足げに見る八重子と、事態が今だに飲み込めずいにる賢一。 「さて・・・茶でも飲むかのぅ・・・」 一仕事終えて肩を叩きながら部屋から出て行こうとする八重子。 「・・・・ちょっと待て・・・」 その頃になってようやく我に返った賢一。 「ん?どうしたんじゃ?賢一殿」 「誰がここで暮らすって?」 「・・・お前さんじゃが・・・他に誰がいる?」 「俺はそんなこと了承した覚えないぞ・・・・」 「何言っとるんじゃ。お嬢様と暮らせるんじゃ嬉しかろう」 「そ・・・それとこれとは話が別・・・」 「それにお前さん、今、無職じゃろ。ここにいれば食うには困らん」 賢一は言葉に詰まってしまう。 「・・・な・・・何でそれを・・・」 「私はなんでもお見通しなんじゃ」 ふぉふぉふぉ・・・と笑いながら部屋を出て行く。 残された賢一はガックリと肩を落とす。 『・・・・電話の話・・・聞かれたんだな・・・・』 ・・・まあ、そのことがなくても賢一が八重子に勝てるはずもなく・・・。 『・・・絶対出てってやる・・・!』 賢一は心に誓う。 「とっとと仕事探して絶対出てってやるぞ!!」 既に食堂へ姿を消した八重子に向かって叫ぶ。 ・・・そんな様子をジョルジュと一緒に廊下から見ていた優希。 ゆっくり賢一の側に寄り手を握る。 賢一はちょっと驚き、その後困惑と照れが入り混じったような微笑を浮べる。 「私は賢一様が側にいて下さると嬉しいです」 賢一を見つめ幸せそうに笑う。 優希の澄んだ瞳。 初めて会った時と同じ・・・優しくて温かい・・・綺麗な瞳。 賢一は、その瞳からは一生逃げられそうになかった・・・・。 |
| ☆おしまい☆ |
2001.9.12