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サンタクロースなんて信じねぇ!

井原幸太 4歳 
ちょっと(?)運の悪い男の子
彼は4歳の時、まだサンタクロースを信じていた。

12月24日の夜
『いい子にしていないとサンタさん、来てくれないって
おかあさんいってたもん!』
なーんて可愛いこと思いながら布団に潜り込んだが・・・
興奮してなかなか寝付けなかった。

12時過ぎ・・・・幸太の父親が酔っ払って帰って来た。
忘年会があったらしい。頭には三角の帽子を被って上機嫌だ。
母親が呆れた顔で出迎えた。
クリスマスプレゼントは、いつも父親が幸太の
枕元へ置くのが決まりごとのようになっていた。
『物心ついたら正体を明かし、恩にきせるのだ!』
・・・それが父親の口癖だった。


父親は酷く酔っているのに風呂に入ると言い、
母親が止めるのも聞かず浴室へ向かい
脱衣所で服を脱ぎ捨て、あとはトランクスと靴下と時計
ネクタイと頭に被った帽子を外せば浴室へGOー状態に
なった時、プレゼントのことを思い出した。

「ああそうだ。忘れないうちにプレゼント置いてこなきゃな!」
父親はその時点で自分が今どんな格好をしているかなんて
頭からふっ飛んでいた。

そのままの格好で、あらかじめ用意していたプレゼントを
手にして千鳥足で幸太の部屋へ向かう。




キィィィィ・・・
ドアの開く音。

まだ起きていた幸太はドキッとする。
『もしかして・・・サンタさん?』
布団に頭まで潜って狸寝入りをする。

『サンタさんはドアから入ってくるのかぁ・・・・』
どきどきしながらも感動した。
寝てないことがわかったら、プレゼント
もらえないと思い、出来るだけ気配を消していた。


「あ、それ♪今日のお酒が飲めるのは〜
貴方のおかげ〜課長さん〜♪
なーにが課長だ、こんちくしょうめ!」

何やらでたらめな鼻歌と愚痴が聞こえてきた。

サンタさん・・・とうさんと同じこと言ってる・・・。
幸太は幼い知識を総動員してサンタと思われる人物の
言葉に耳を傾けた。

「リストラが怖くてサラリーマンやってられるかってんだ〜
へっへっへ」

『リストラ』!!
よくわからないけれど
とうさんがとてもこわいものだと言っていた。
サラリーマンのテキだと言っていた。
そうかサンタさんは『リストラ』もこわくないのか!!
・・・・その聞き覚えのある声に幸太もいい加減、
気が付いてもよさそうなものだが
根が素直な幸太は一度信じると融通がきかない。

そんな勇ましいサンタさんの素顔が見たい・・・
幸太は好奇心に勝てなかった。

そおっと頭を布団から出して・・・・・目を開ける。


薄暗い部屋に浮かぶ人影・・・・・目の前にあったのは・・・。


プレゼントを枕元に置こうとしていた
トランクスいっちょうの父親の姿・・・
=サンタクロース・・・。

首のネクタイが虚しく揺れていた・・・・・。


壊れた夢。



そして・・・
「こうやって人は大人になっていくんだ!
人生の勉強させてやったんだありがたく思え!」
呆然としている幸太に父親はそう言って笑い飛ばした。


クリスマスの素敵な思い出でした。
「↑・・・っなわけねーだろ!」(幸太)

END