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満天の星空

倉田さんと再会して2ヶ月が経とうとしている。
その間に結構一緒に食事に行ったり、休日遊びに行ったりもしていた。
俺の方から誘ったり、倉田さんの方から誘われたり・・・そんな感じだった。

でも・・・俺達の関係・・・まだはっきりとはしていなかった・・・。

もう1度きちんと自分の気持を伝えよう・・・2人になった時いつもそう思うけれど
未だに伝えられないでいた・・・。

今日は会社が終わった後、倉田さんと2人で食事に行く約束をしている。

今日こそは言おう・・・俺はそう固く決心していた。





会社から少し歩いた所に小さな喫茶店がある。店内は静かでとても美味しい紅茶を
出してくれる所だ。倉田さんと会社帰りに何処かへ行く時はいつもそこで待ち合わせをしていた。
俺はとっとと仕事を片付け時間通りに喫茶店に到着!
さあ!倉田さんとの楽しい一時の始まりだ!俺は元気よく喫茶店のドアを開け・・・・
店内には入らずとっさにドアを閉めてしまった!


「・・・な・・何で?」

この喫茶店は狭くてドアを開けると店内が見渡せる。
待ち合わせとかで店内のどの席に座ってもすぐ発見出来る。


だから倉田さんのことはすぐに見つけられた。
でも・・・倉田さんの隣に座っていたのって・・・・・。

俺はもう一度静かにドアを開けた。
そっと顔を覗かせて・・・・・・・。

「何してるんだぁ!井原君。早くこっちへ来なさい」

ニコニコしながら手を振る御老人。

何で倉田会長がここにいるんだぁ?(汗)

心の中でそう叫び、喫茶店の入口で数秒固まってしまった・・・・。







席に座り・・・俺と倉田さんと会長・・・・紅茶を飲む・・・。

「今日井原さんと一緒にお食事するって言ったらおじい様どうしても
ご一緒したいって・・・・・・・・」
倉田さん・・・困った顔をして申し訳なさそうにそう言った・・・。

「井原君。久しぶりだなぁ」
当の会長、とてもご機嫌。俺の肩をポンポンっと軽く叩く。
「ホントに久しぶりですねぇ・・・」
苦笑いしながら答える・・・・。
でも心の中ではかなり動揺している。
会長と話をしたのは1度きり・・・しかもその時って一方的に俺が
怒鳴って・・・・・・それっきり・・・。


それに・・・・
今日は・・・・今日こそ再度告白しようと思っていたのに・・・。
会長が一緒じゃ・・・・・・・今日も言えない・・・・・。


俺は心の中で嘆いた・・・。








喫茶店を出て・・・予定では俺と倉田さん、お気に入りの焼き鳥屋へ行こうと思っていた。
店内は広くてテーブル席と座敷と両方ある。座敷の方は一応小さな個室になっていて
落ち着いて食事が出来るし焼き鳥もとても美味しくてしかも料金もそんなに高くないので気に入っていた。
・・・しかしそこに会長を連れて行っていいものかどうか・・・・。
そう思いながら会長の顔を見た。


「井原君がいつも行く所に連れてってくれ」
会長は相変わらずご機嫌な笑顔で言った。

会長がそう言うなら・・・ま、いっか。

俺達は予定通り焼き鳥屋へ行った。
座敷の方へ通され一通り注文を済ませた。


お通しと飲み物が運ばれて来て・・・俺と会長はビールで倉田さんはウーロン茶で・・・まずは乾杯!


俺はビールを1口飲み・・・これから3人でどんな会話をすれば良いんだ?・・・と
困惑していた。

ため息付いて会長を見る・・・・。

会長は最初にコップに注いだビールを既に飲み干していた。
慌ててビール瓶を持って2杯目を注いだ。
その2杯目もあっという間に飲み干し・・・・3杯目・・・。


会長は3杯目を半分くらいまで飲み、『ぷはーっ』と息を付き・・・


「で、お前たちはどのへんまで進んどるんじゃ?」

満面の笑顔でとんでもないこと言いやがった。


俺はビール瓶を抱えたまま固まって・・・・倉田さんは真っ赤になっている。
「・・・・おじい様・・・・」
そう言ったきりうつむいてしまった。


俺は心の中で『こんのクソじじい〜!!』と握りこぶしを作った。


・・・進むも何も・・・まだ何も始まってないよ・・・・。



それからのお食事タイムは会長だけ絶好調で俺と倉田さんは借りてきた猫状態。
会長はビールから日本酒に乗換え・・・もう結構な量飲んでる。

お酒・・・強いんだ・・・・唖然として見ていた。

それでも会長はさすがに酔っ払ってきたようで・・・顔を真っ赤にしながら
どんどん陽気になっていく。

倉田さんがちょっと席を外し、会長と2人きりになった。


会長は俺の顔を見つめて言った。
「なぁ・・・・うちの会社へ来んか?」
「はぁ?」

ちょっとビックリし、すぐに・・・返答。
「遠慮しておきます」

会長はじりじりと俺の方へにじりよって来た。
何となく会長の気迫に押され俺は後ずさる・・・。

「ど〜してもダメか?」
「ど〜してもダメです!!」
そんな会話をしながら・・・とうとう部屋の隅まで追い込まれてしまった。


「ど〜しても嫌か?」
「嫌です!!」



会長は俺の肩をガシっと掴み泣きながら言った。

「たまには素直に親の言うことをきかんか!!幸生!

おい、こら・・・ちょっと待て・・・。誰だって?幸生だぁ?

会長は俺の肩を掴んだままガクガクと揺らした。

「だいたいお前はいつもいつもわしの言うことに反発しおって!!」

激しく揺すられたため何度か壁に頭をぶつけた・・・・・痛ってぇなあもう!!酔っ払い!!

そして・・・胸倉をつかまれ今にも殴られそうな勢いだ!!

「幸生ぉぉぉぉ!!」

「俺は幸太だぁ!!」



・・・それから会長の酔いが覚めるまで延々と何だかわからない
お説教をされた・・・・。しまいにゃ言い合いになっていた。

途中で席に戻って来た倉田さん、初めは唖然とその光景を眺めていたが・・・
途中からはクスクス笑ってそんな俺達を見ていた・・・・・・・・。








「いやぁ・・・すっかり世話になったのう!」
会長は悪びれる様子もなくニコニコしながら言った。
すっかり会長の酔いも覚め、店の前で頼んだタクシーを待っている。

タクシーが来て会長が乗り込み、俺はてっきり倉田さんも一緒に
連れて帰るものと思っていたが・・・会長は倉田さんに言った。


「舞は井原君に送ってもらいなさい」
そう言ってタクシーのドアは閉められた。
タクシーが走り出した時おもむろに窓が開いて会長が顔を出して言った。


「今夜は帰って来なくてもいいからなぁぁぁ

遠ざかるタクシー・・・・・・。
俺は眩暈がした・・・・・最後の最後までとんでもないじーさんだった・・・・・。

しばらく俺と倉田さんはボーゼンと立ち尽くし・・・・顔を見合わせ苦笑い・・・。



それから何処に行くでもなく・・・夜の街を散歩した。
季節は初夏・・・夜風も暖かく気持ちがいい。

高層ビル街・・・夜も遅いので人影も少なかった。
少し前を歩く倉田さんの後姿を見て・・・・今しかないと思った。

俺は立ち止まり・・・言った。

「倉田さん」

倉田さんは足を止め笑顔で振り返る。


大好きな笑顔・・・。




軽く息を吸い込み意を決して言った。
「倉田さんのことが好きだ」

倉田さん、黙って俺を見つめている。

彼女の瞳を見ていたら・・・とても安らいだ気持ちになり自分でもビックリするほど
落ち着いて言葉を言えた。

「好きなんだ・・・」


倉田さんはゆっくりと俺の方へ歩いて来て・・・
「私も井原さんが好き」
そう言って・・・ふわっ・・・と俺の胸に飛び込んで来てくれた・・・・。

「大好き・・・・」
倉田さんは目を閉じ・・・もう1度小さな声で、そうささやいた。


俺は自分の両手の行き場所に困り・・・・そおっと彼女を抱きしめた。






都会の夜空じゃ・・・あまり星は見れないけれど・・・・・・。
今夜は俺の心の中は満点の星空!


俺の側で・・・幸せの星が光ってる。
2001.5.3

(ちょこっと後書き)
あはははは(汗)少女漫画チック〜!(照れ照れ・・・)もう照れながら書きました!(笑)
さて・・・この続きは恥かしいから裏かも!(←まだやる気か!!・・・汗)
しかし・・・倉田会長・・・どんどんおちゃめなお祖父ちゃんになってく・・・・。(汗)