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眠れる森の健太郎

決断の森の奥に、大きな大木がある。
緑を生い茂らせ、風が吹くと葉をなびかせる。

その木の傍に、木の枝や草花で作られた自然のベッド、『やすらぎのねどこ』がある。
高さがあるベッドで、丸太で作られた階段がある。

そこで自然に守られながら眠り続ける魔法使い。

寄り添うように『やすらぎのねどこ』の縁にとまり、カラスが1羽うたた寝をしていた。


「カー助!愛してるわ〜!」

突然響いた恐怖の言葉に、驚いたカー助は危うく縁から落ちる所だった。
慌てて体勢を立てなおし、振り返り、見下ろす。
そこには肩にレイミを乗せたキリーが立っていた。

「やっぱレイミか!それにキリー。・・・もうそんな時間か・・・。」
瞳に夕焼けが映る。
カー助は食事と何か用事がある時以外、ずっと親友に寄り添っている。

「モクモクは元気?」
キリーは階段を上がり、『やすらぎのねどこ』へ上がってきた。
肩に乗っていたレイミがピョコンと縁に降りる。

キリーは健太郎の顔を覗きこみ、微笑みかける。

「良く寝てるね。」
魔法の力で眠っているので、良く寝ているのは当たり前なのだが・・・・
その言葉を思わず呟いてしまうくらい・・・穏やかな寝顔。


魔法の研究は思うように進まず、キリーは時々一人になって涙を落とす。
不安。
焦り。
自分に対しての悔しさと苛立ち。
・・・そして、切なさ。

時間は流れて、今は健太郎よりキリーの方が年上になってしまった。
その姿も少女から大人の魔法使いへと成長していた。

縁に腰かけ、呟く。

「私のこと見たら、ビックリするかなぁ・・・。」
「するわよ。綺麗になったって腰抜かすわ。」
キリーの言葉にレイミが応える。

<確かに、めちゃくちゃ綺麗になったよな・・・>
カー助はキリーを見つめ、そう思った。

キリーは毎日毎日研究に明け暮れ、魔法使いにとっての青春と言われる時期を
全て費やし魔法玉を作る魔法を探している。

1分でも1秒でも惜しいくらいで・・・睡眠も満足にとらない日が続くこともあった。


そんなぎりぎりの生活を送る中、必ず日に1回・・・健太郎の所へやってくる。
それがキリーの唯一幸せな時間。
この時間だけがキリーに元気と安らぎを与えてくれる。


<必ず約束果たすから・・・・>
挫けてなんかいられない。そんな暇があったらやれることを探さないと。
そう思ってずっと走り続けている。

キリーは眠り続ける健太郎の顔をまじまじと見つめ・・・・ちょっと拗ねたように呟く。

「普通、お姫様が眠り続けてて、王子様が目覚めさせてくれるのにね。・・・逆じゃない。」

そして、長い髪にそっと手を添えて、もっと顔を近づける。

「・・・・・キスしたら、目覚めるかしら・・・。」



きりーの言葉にカー助は慌てて、遮るように健太郎の胸元に飛び降りる。
「だ・・・ダメだぞ!そんなことさせないぞ!」
「ケチ。」
「そういうことはな、合意の上でないとダメなんだー!」

キリーはクスっと笑った。

「冗談よ。いつか気持ごと何もかもいただくから。」

<覚悟しててね・・・>
自信に満ちた瞳で健太郎を見つめ・・・・大きく伸びをした。

「休憩終了!レイミ、戻るわよ。」
「はーい。またね、カー助。」
そう言ってキリーの肩に飛び乗る。

キリーは階段を降り、カー助の方へ振り返る。


「じゃあね。カー助。健太郎のこと、よろしくね。」
「・・・ああ。キリーもあまり根詰めないで頑張れよ・・・。」
「今根性出さないで、いつ出すのよ。」


・・・本当は、今日、泣きたい気分で健太郎に会いに来た。
でも、再び自分を奮い立たせる元気をもらった。

<落ちこんでなんか、いられないのよ!>


キリーは瞳に闘志を宿らせ、踵を返し、勢い良く研究所へと歩き出した・・・。

2002.2.22 

・・・・キリーのお話が書きたくて・・・・。