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天国と地獄
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事件から3ヶ月が経った・・・。

川辺賢一 34歳(男) と 城ノ内優希 17歳(女)・・・は、晴れて恋人同士になった。
今現在、同じ屋根の下に住んでいる・・・。城ノ内邸。立派なお屋敷だ。

一緒に住んでいると言っても・・・決して同棲じゃない。単なる同居だ。
しかも、最強の監視役までいる。

「お帰り、疲れたじゃろ。賢一殿。」
仕事から帰ってきた賢一を、目を細め、笑いながら出迎える八重子。
榊八重子(女)城ノ内家へ仕えて50年。 70歳は超えているらしいが、本当の年齢はよくわからない。
とても元気の良いお婆さんで、その迫力に、賢一はいつもやられっぱなしである。
2人の監視役である。

八重子の後ろには、同じく出迎えに来ていた優希とジョルジュがいた。
「賢一様。お帰りなさい。」
「わふん!」

・・・ジョルジュはこの家の家族の一員、ゴールデンレトリーバー。
賢い犬で、みんなに良く懐いている。



以上が城ノ内家に住む主要メンバーである・・・・。
(あとは数人のお手伝いさんがいる)

「賢一様。ご飯はまだですか?」
少し残業で遅くなったが、何も食べてこないで真っ直ぐ帰ってきた。
いつも美味しい料理が賢一の帰りを待っているからだ。

「いや、何も食べてないからお腹空いてる。」
「良かった。」
優希は微笑んで言葉を付け足した。
「今日は私も食べないで待っていたんです。」
いつもと同じ会話・・・。


<今日は・・・ねぇ・・・>
賢一は苦笑いする。
『今日は』という表現はあまり妥当でないな・・・と賢一は思う。
何故って、ほとんど毎日賢一の帰りを、夕食を食べずに待っているからだ。

いつも『待たずに先に食べろよ。』・・・と、言っているのだが
『賢一様と食べた方が美味しいから。』
・・・と、にこやかに言われ、その話はそこで終わってしまう。

『残業でかなり遅くなるからお願いだから先に食べてくれ』・・・と、会社から電話して
懇願しない限り、優希は待っている。




前の事件で無職になっていた賢一。1ヶ月ほどで再就職をした。
そりゃもう、血眼になって仕事先を探した。
何故って・・・この家から早く出たかったからだ。
半ば無理やり同居させられた賢一。
この家で、衣食住何も不自由なく暮らしていたが・・・たった一つ深刻な問題があった・・・。




今夜一夜のお供に、賢一を選んだジョルジュ。
賢一のベッドの上で既にくつろいで寝ている。
そんなジョルジュの傍で、賢一も寝転び、寝るまでのひと時を
ぼんやり過ごそうと思った時、ノックの音がした。

<今夜もかぁ・・・>

賢一は、のろのろと起き上がりドアを開けに行く。

「賢一様。お茶入れたんですが、一緒に飲みませんか?」
ニコッと微笑みながら、2人分の紅茶が乗ったお盆を持って優希が立っていた。

優希はほとんど毎日、寝るまでの間、賢一の傍にいたがる。

賢一は力なく笑い、優希が中へ入れるように体を移す。


ソファーに座り、楽しげに話し続ける優希に、賢一は律儀に相槌をうちながら、
頭の中では気持ちを落ち着かせようと必死だった。

優希は淡い桜色のネグリジェにカーディガンを羽織った、後はもう寝るだけって姿なのだ。
しかも部屋に2人きり。
優希のことをめちゃくちゃ好きな賢一にとって、これは理性を保つのに
かなりの努力を必要とする。
優希も賢一のことを、めちゃくちゃ愛しちゃっているから
いつも無防備極まりない行動をする。
体を寄せられたり、ニコッとか笑いながら顔を覗かれると
・・・可愛くてたまんない状態で・・・ヤバイのである。

今だってソファーに並んで座って・・・・右隣の優希の体温を感じている。



賢一が頭の中で早口言葉や数式を思い浮かべ、天国なんだか地獄なんだかわからない状態に
必死で耐えていると・・・ふいに肩に重さを感じる・・・。

優希はいつのまにか、賢一の肩に頭を預け、寝てしまったようだ・・・・。

賢一は、ため息をついて・・・しばらくそのままでいたが、
起こさないように気をつけながら肩をどかし、優希の体を支えながらソファーに寝かせた。


<安心しきって寝てるよなぁ・・・>
熟睡して静かな寝息をたてている優希の顔をジョルジュと一緒に
覗き込む。そして、自分のベッドから毛布を持ってきて、かけてやる。


<いつまで、俺の忍耐力、持つかなぁ・・・・>
苦笑いして、反対側のソファーに座る。
ジョルジュが寄ってきて、不思議そうに賢一を見つめた。

<俺がこんなに努力してんのに・・・あのクソ婆あ・・・>
クソ婆あ、とは八重子のことである。
『お嬢様はまだ17歳じゃ。キッスまでじゃぞ』とか言っときながら
最近では『そこいらの高校生の方がよっぽど進んどるのぅ。』などと
のたまって、挙句は『情けない・・・。』と嘆き始めている。

<監視役がけしかけてどうすんだよ・・・・何考えてんだか・・・・まったく>


賢一と優希は、確かにお互い気持ちを伝え合った。
賢一はとても優希のことが大好きで・・・だからこそ、躊躇する。
観念して気持ちを伝えたのに、未だに迷っているのだ。
<本当に俺なんかで良いのか・・・?>
優希の寝顔に心の中で問いかけてみる。


優希が知ったら、怒るだろうが・・・・賢一は、もし年齢的にもその他色々なことでも、
相応しい相手が優希の前に現れたなら、身を引こうと思っている。

<・・俺みたいな男のどこが良いんだか・・・>
優希の気持ちがイマイチ理解できない賢一なのであった・・・・。

<早くアパート探そう・・・>
そんなことを具体的に考え始めていた。


優希はうっすらと目を開けた・・・。
考え込んでいる賢一の姿を見て・・・切なくて泣きたくなるのを一生懸命堪えていた・・・・。

2001.1.9 

・・・趣味に走りそうだな〜・・・。気楽に書きます。